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ニュース 2021/06/04 (金)

じじぃ放談12【 暴走する「ネット人格」】

サガテレビのニュースサイトの書き込み欄には、多様な意見があふれている。ときに「専門家か?」と思えるほどの正論あり、固定観念にとらわれない、はっと目を見張る感想ありでなかなか手ごわい。ただし、中身は玉石混交で、どちらかと言えば「玉」よりも一方的な偏見や誹謗中傷の混じった書きなぐりの「石」も多く、これらに触発されてか、同様の声がこだまして増殖していくこともある。子猫のようなかわいい生き物が、禁じられた水を得て凶悪な生物に進化する、1980年代の米映画「グレムリン」を思い出す。

コロナ禍のインフォデミック(情報爆発)にいるので、少しは脳みそを洗い流そうと「生物はなぜ死ぬのか」(講談社現代新書)というタイトルの文庫本を手にした。神奈川県ご出身で、九州大学で学ばれた生物学者、生命学者である小林武彦さんの著。バクテリアに始まって、あらゆる生物の死についての考察で、人の生命と死についても考えさせられる。この本の最後に「ヒトの未来」についての下りがあり、今のネット社会に関して興味深い考察をされている。

普段は温厚で優しい知り合いからのメールは、まるで別人かと思えるほどの過激な内容だそうだ。そのギャップについて本人に聞くと「キーボードを叩き始めると別人格が降りてくる」と表現したというのだ。なるほど、車のハンドルを握ると人格が変わる、という話はよく聞くが、メールや楽器、使う言語など、人が「表現するツール」によって、本来の人とは別の人格が現れてくることがあるそうだ。ネット上の別人格、つまりアバター(分身)が、匿名の陰に隠れてスクリーン上でさらに躍動し、あるいは暴走するというわけだ。

そう言えば、最近もツィッターで「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」とコロナ禍を表現された内閣官房参与の大学教授がおられた。確かに、欧米諸国と比べると数字的にはコロナ被害者はかなり少ない。事実を素直に表現すればいいのに、言葉遣いが乱暴で、「笑笑」になると、知性や品格が感じられない。読み手に親しみを持ってもらおうとの狙いだろうが、逆に軽薄さが先に立つ。小林さんが言うように、キーボードかスマホのスクリーンに打ち込んでいるうちに何かが降臨したに違いない。

話したり、書いたりする言葉は、その人の頭脳そのものである。人は言葉で物事を考え、言葉で苦難を乗り越え、言葉で喜びを表す。しかし、ネット社会が行き過ぎると、軽はずみで書きっぱなしの暴走言語が増えてくる。詩人の谷川俊太郎氏は「言葉の値打ちがどんどん下がっている」とネット社会の言葉のインフレを憂えておられる(西日本新聞)。

ニュースサイトの目を覆わんばかりの書き込みも、おそらく何かが降臨した「ネット人格」が書いたもので、本当の人格は、知的で冷静で心優しき市民であると、信じたい。

サガテレビ解説主幹 宮原拓也

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