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女性大工として独立!夢を諦めずに築いた理想の働き方
佐賀県内で起業した女性たちを紹介する冊子「SAGAwith(サガウィズ)」が今夏発行され、佐賀市役所などで配布されています。この事例集には、コーヒー店や着物店、伝統工芸のリブランディング事業など多彩な創業者が紹介されていますが、中でも注目を集めているのが、女性大工として独立を果たした寺﨑さんです。
理系女子から大工への転身
「元々は国立大学の農業部に入学した理系女子だったんです」と語る寺﨑さん。木材資源について学ぶ中で、ある方の住宅を見学する機会がありました。
「木造建築だから見においでよって言ってくださって、見に行ったら、すごく素敵な空間だなと思って。そこで自分の中の物づくりが好き、木材が好き、作るのが好き、いろんなものがガチャンと来て、大工さんになりたいなって思ったんです」
最初の挫折と新たな道
大学時代に縁のあった工務店に体験がしたいと申し出た寺﨑さんでしたが、「1年間事務をやってみない?」と提案され、事務を経験しました。しかし、やはり大工がやりたいと相談すると、「うちでは女の子は難しい」と言われてしまいます。
夢を諦めきれず、その工務店を退社した寺﨑さんは、国土交通省が行う大工育成プロジェクトに参加。鳥栖市の建設会社で働きながら育成メニューを修了し、ついに念願の大工になることができました。
現場での戸惑いと技術の進歩
建設会社で働き始めた当初、現場では周囲が戸惑うこともありました。「急に女の子が入ってきて、どこまで言ったら大丈夫なんだろうみたいな感じでした」と振り返る寺﨑さん。
しかし、彼女は体力的なハンデよりも「作る楽しさ」の方が勝ったといいます。「最近は機械が発達して、ちょっとの力で扱えるものが増えました。どちらかというと機械を扱うセンスがあるかないかという時代になってきています」
技術の進歩により、性別による差がだんだん関係なくなってきているものの、「それがまだ知られていない」ことを課題として挙げています。
9年の修業を経て独立へ
建設会社では様々な現場を経験し、大工として9年間勤務した寺﨑さん。そして去年10月、ついに独立を果たしました。
「いろんな場所に行ってみたい、いろんな人と仕事してみたいという気持ちがすごくあって、一度自分でやってみたいなと思いました」
技術が身につき、できることが増えてきた寺﨑さんは、「ああいうやり方もやってみたい、こういうやり方もやってみたい」という思いが募り、場所と時間を自分で管理してやってみたいと考えるようになったのです。
個人事業主の現実
しかし、個人事業主として独立すると、やることは山積みでした。
「問い合わせが来るところから、返信、相談、見積もりで金額を出して、材料の段取りをして、実際現場に入って、完成まで全部一人でやります」
以前は「上から頂く仕事をそのまま毎日淡々とやって、それに集中していれば良かった」のが、今では「頭の片隅にお金のことと材料の発注のことなど、いろんなことが散らかりながら、それをうまく並べ替えつつやっている感じ」だといいます。
起業して良かったこと
多忙な日々を送る寺﨑さんですが、起業して良かった点について「自分が思う仕事ができる、決定権が全部自分にあるのが一番。あと一緒に働きたい人を選べる」と語ります。
「お客さんに対していいサービスができるためのメンバーや、仲間集めを自分でできるのがすごく楽しくて」と、自分らしい働き方を実現できる喜びを表現しています。
「とにかく今目の前の仕事を一個一個丁寧にやって、現場を楽しくやっていったら、思いもしなかった出会いがあって、また仕事が来るのかなと思っています」
現場ファーストの姿勢
建築関係には設計やデザインなど様々な分野がありますが、寺﨑さんは迷いなく「現場が好きで現場にいたい」と断言します。
「現場ファーストでやっていきたい。ここにいられるのがすごく嬉しい」という言葉からは、職人としての誇りと情熱が伝わってきます。
自身の活躍する姿を多くの人に見てもらうことで、業界に変化をもたらしたいという思いも抱いています。「自分がやっているのを見て、楽しそうだなと思って、この業界に来てくれる人がいたら嬉しい」
明るい現場で楽しく女性職人を増やしたいという願いを込めて、日々の仕事に取り組んでいます。
冊子「SAGAwith」の意義
この寺﨑さんの事例が掲載されている「SAGAwith ボリューム2」は、佐賀市役所、佐賀市産業支援相談室、日本政策金融公庫佐賀支店、各地の商工会・商工会議所に設置されています。
発行元の日本政策金融公庫佐賀支店では、「創業を考えている方や一歩踏み出せない方々に、実際に創業された方がどんな苦労をしたか、どういう思いでそこに至ったかをお示しできるものを作りたかった」と発行理由を説明しています。