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佐賀に芸能事務所を——演劇・美術・音楽が一度に楽しめる舞台公演、5月6日に喫茶室で開催
「佐賀でも、ここまでできるんだと思ってもらえる環境をつくりたい」——。
そんな熱い思いを胸に、若き演劇人が動き出しました。
舞台となるのは、佐賀市内の「喫茶室」。
そこで企画されたのは、演劇・美術・音楽を掛け合わせた新しいかたちの公演です。
小さな場所から生まれる大きな挑戦。その舞台に込められた思いを取材しました。
扉を開けたら物語の世界
訪れたのは、佐賀市内にある「ギャラリー喫茶室 蝙蝠」。
扉を開けると、店内にはすでに張り詰めた空気が漂い、稽古が始まっていました。
向かい合う男女2人が、真剣な表情で台詞を交わす——その熱量は、思わずこちらまで引き込まれてしまうほど。まるで物語の世界に入り込んだかのような濃密な時間が流れていました。
演劇ユニット「小さな街」
そんな迫力ある演技で迎えてくれたのは、演劇ユニット「小さな街」のメンバー。
主宰の松下さんは、佐賀東高校演劇部を卒業後、東京と佐賀を拠点に活動してきた演劇人です。
「来月5月にここで舞台公演があるので、その稽古をしていました」と穏やかに語ってくれました。
なぜ"劇場"ではなく"喫茶室"なのか
今回、上演されるのは、「最愛の人との思い出を取り戻しに行く」物語を描いた会話劇。静かなやり取りの中で感情が揺れ動く、繊細な作品です。
そして、注目したいのがその会場。あえて劇場ではなく、日常の延長にある喫茶室を選んだことには、はっきりとした理由があります。
「劇場はどうしても“非日常の空間”というイメージがあって、少しハードルが高いと感じる方もいると思うんです。でもカフェなら、もっと気軽に入れる。物語にも自然と入り込みやすくなるんじゃないかと考えました」と松下さん。
前回の公演は満席となり、この試みの手応えは十分。今年は5人のメンバーで、さらに表現の幅を広げながら上演に挑みます。
演劇×美術×音楽
この公演の注目ポイントは、演劇だけにとどまらないこと。
舞台には、美術と音楽も取り入れられています。
会場にはみやき町在住の画家・江口らなさんの作品が並び、空間そのものが作品の一部に。さらに、佐賀で活動するバンドのピアニスト兼ドラマーが、劇中で生演奏を披露します。
「演劇をやる人がピアノも弾く、という形ではなく、ピアノのスペシャリストに来ていただいています」と松下さん。
それぞれの分野で活動する表現者たちが集まり、一つの舞台をつくり上げます。
「演劇が好きな人が、音楽や美術に触れる機会は意外と少ない。同じ場で体験できれば、もっと広がりが生まれると思うんです」
ジャンルを越えて交わる表現。
その先にあるのは、芸術の楽しみ方そのものを広げていきたいという思いでした。
江口らなさんが語る「世界観への共感」
みやき町在住の画家・江口らなさん。
白い女の子や赤ちゃんをモチーフにした、やわらかくも印象に残る独自のタッチが特徴です。
実は、芝居と美術を融合させるのは今回が初めて。
「小さな街さんの雰囲気や世界観がとても好きで、一緒にできたらいいなと思いました」と江口さんは話します。
松下さんも、「去年の個展を見て、その空間の雰囲気に強く引き込まれた。世界が一気に広がる感覚があって、それを来てくださる方にも体感してほしいと思いました」と語ります。
互いに惹かれ合った表現が重なり合い、舞台の世界はより深く、豊かに広がっていきます。
佐賀の芸術シーンの現状
取材を通して見えてきたのは、佐賀の芸術活動をめぐる“リアル”な姿です。
江口さんは「歩いて行ける距離にギャラリーが点在していて、活動しやすい環境だと感じています」と話します。
一方で、佐賀大学に進学した学生からはこんな声も。
「芸術に触れるには都会に行かないといけないと思っていたけれど、実際はこの喫茶店でも個展が開かれているし、地域に根ざした劇団もある。気づいていなかっただけかもしれない」
松下さんも、「SNSでオーディション情報を出したら応募があって、『佐賀でもできるんだ』と感じた」と話します。
活動の土壌は確かにある——。
ただ、それが十分に知られていない。このギャップこそが、今の佐賀の芸術シーンが抱える課題のひとつです。
“ない”のではなく、“見えていないだけ”。
そんな可能性が、佐賀にはまだ眠っているのかもしれません。
最終目標は「佐賀に芸能事務所を」
今回の公演の背景にあるのは、単なる舞台づくりにとどまらない、より大きなビジョンです。
松下さんが見据えているのは、佐賀に芸能事務所を設立すること。
「佐賀で映画を撮るとなったとき、本来は佐賀の役者が必要になります。でも事務所がなければ、福岡や長崎に流れてしまう。佐賀の物語なのに、佐賀の役者がほとんど出てこない、そんな状況が起きてしまっているんです」
その言葉からは、地域で表現を続けることの難しさと、もどかしさがにじみます。
だからこそ、事務所の設立は“夢”ではなく、環境を整え、人材を育てるための現実的な一歩。
「こんな芸術があるんだと、もっと多くの人に知ってほしい」と松下さんは語ります。
「僕ひとりの力は小さいけれど、今回関わってくれる皆さんや、いろんな人が力を合わせれば、きっと実現できると思っています」
小さな舞台から広がっていく、大きな未来。その第一歩が、いま確かに踏み出されています。
まとめ
佐賀の芸術シーンには、確かな土壌がある——。
ただ、その魅力はまだ十分に知られていない。今回の取材で浮かび上がってきたのは、そんな現実でした。
松下さんが目指す芸能事務所の設立は、まだ道半ばかもしれません。それでも、5月6日に「ギャラリー喫茶室 蝙蝠」で行われる今回の公演は、その夢へとつながる確かな一歩です。
「見に来て、触れてほしい」——その言葉の通り、演劇・美術・音楽がひとつの空間で交わる特別な体験が待っています。
ふらりと足を運ぶ、その小さな行動が、佐賀の芸術シーンを広げていくきっかけになるかもしれません。
店舗情報
- 店舗名:ギャラリー喫茶室 蝙蝠
- 住所:佐賀県佐賀市松原1丁目1−46
演劇 『空想的形状記憶について』
- 開催日:5月6日(水)
- 料金:一般 2500円+ワンオーダー制

