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2025.11.14

九州の未来を担う半導体産業で注目される佐賀県の特殊性とは

熊本県に進出した台湾のTSMCが注目される中、佐賀県の半導体産業も独自の強みを持って成長を続けています。製造業全体に占める半導体関連の割合は熊本県並みの12%に達し、特に「半導体を作る材料が全て揃う」という特殊なポジションを築いています。シリコンウエハーから樹脂封止材まで、半導体製造に必要な材料が県内で全て揃う九州初の半導体企業・日清紡マイクロデバイスATの末吉社長に、佐賀県の半導体産業の現在と未来を伺いました。

九州における佐賀県の半導体産業の位置づけ

政府の経済統計による九州各県の半導体を中心とする電子デバイスの製造品出荷実績を見ると、佐賀県は長崎・熊本・大分に比べて製品出荷額はそれほど大きくありません。しかし、製造業全体に占める割合で見ると12%で、これは熊本県並みの数値となっています。

リポーターは「福岡県は他の製造業の規模が大きいのもあるでしょうが、地方では自治体の誘致や大規模な工場用地が確保しやすいなどの地の利が、地域産業として根付く一因になっている」と分析しています。

九州初の半導体企業として歩む日清紡マイクロデバイスAT

吉野ヶ里町、目達原駐屯地の近くにある日清紡マイクロデバイスATは、九州で初めての半導体企業として1965年に創業しました。3年前に「佐賀エレクトロニックス」から社名を変更した同社は、半導体の後工程を専門に手掛けています。

半導体製造の「後工程」とは

末吉社長は半導体製造について「半導体には前工程と後工程というものがありまして、前工程でシリコンウエハーに半導体の機能を作る工程があります。それを私たちが(後工程で)1個1個のチップに切り離して、こういうリードフレームにチップを搭載して電気的接合するためにワイヤーを貼って、最終的に保護するための封止をして、それを1個1個のチップ、弊社で作っているのはこういう単体の半導体の製品なんですけど、最終的にリールに挿入してお客様に出荷するという行程」と説明しています。

同社の製品は主に自動車関係が7割を占めており、「車では今だいたい1つの車に1000個を使われている」という状況です。特にコロナ禍で部品が入らなかったことを機に、「国内回帰が増えてきて国内メーカーに作ってもらいたいという車メーカーが増えてきた」と需要の変化を語っています。

オーダーメイド型の強み

同社の大きな強みは、設計段階からオーダーメイド型で顧客企業の求める製品を作れることです。末吉社長は「弊社の場合はチップから設計から後工程まで一貫でできる垂直統合型の企業なので、お客さんが欲しいと言った時に設計から後工程のパッケージ(封止)まで一貫してできますので」と自社の優位性を説明しています。

クリーンルーム環境での製造

同社の工場内部では、わずかなホコリの付着でも製品の異常につながるため、徹底した環境管理がなされています。土井製造技術部長は「表面が全部ステンレスの貼り板になっていまして、塗装等は極力していない設備を導入しています。どうしても塗装とかがありますとダストとなって発塵してそれが製品に影響するというところから、ステンレス一色という形になっています」と品質管理の徹底ぶりを説明しています。

精密な製造工程

後工程では、回路を形成したシリコンウエハーを切り分けた後、電気的につなぐという工程があります。土井部長は各工程について詳しく説明しています。

「こちらがダイボンドプロセスです。ウエハーを一つ一つ個片にしたら、今度は、その一つ一つに個片になったチップを、お客様で使う端子になるリードフレームに銀ペーストを用いて接着する工程になります」

続くワイヤーボンド工程では、「チップをリードフレームという物に乗せた後に、チップの端子からリードフレームの端子をワイヤーを使って接続する工程となっています。超音波熱圧着方式で接合をしています」と、高度な技術が要求される作業が行われています。

最後のモールディング(封止)工程では、「ワイヤーを貼った状態ですと、どうしてもハンドリング(管理)できませんので、お客様もハンドリングできるために樹脂で封止して半導体のチップを保護してやるという工程」で製品が完成します。

新技術開発への取り組み

土井部長は品質の安定化について「ただ単に設備を購入してやるだけではなく、そこに条件を与えるか、レシピをどう作ってやるかが品質を安定化させる源になっている」と技術的なノウハウの重要性を強調しています。

既存工程での製造安定化を図る一方で、新しい技術開発にも積極的に取り組んでいます。末吉社長は「従来の半導体でしたら、小型・薄型化ってだんだん小さくなってきて限界きていますので、今どちらかというとそこにあるような製品で、1つのパッケージの中にいくつもの半導体製品だったり、あの抵抗器だったり、モジュール製品に今力を入れて」と新たな技術分野への挑戦を語っています。

佐賀県の特殊なポジション

中国など海外との競争が激しくなる中、TSMC進出をきっかけに半導体産業が盛り上がる九州で、佐賀県はどのような位置づけにあるのでしょうか。

末吉社長は佐賀県の独特な立場について「佐賀県は特殊なんですよね。半導体産業が特にあるわけじゃないんですけれども、半導体を作る材料、SUMCOはじめレゾナック、半導体を前工程から後工程まで作るのに作る材料がすべて佐賀県で揃うという特殊なポジションなんですよ。それを中心に非常に成長していく地域であるなという風に思っている」と説明しています。

県内の半導体関連企業の集積

佐賀県内の主な半導体関連企業として、以下の企業が挙げられています。

  • 日清紡マイクロデバイスAT(吉野ヶ里町):半導体製造
  • 田中電子工業(吉野ヶ里町):半導体材料(ボンディングワイヤー)
  • SUMCO(伊万里市):シリコンウエハー(世界シェア2位)
  • レゾナック(吉野ヶ里町):半導体材料(樹脂封止材)

リポーターは「シリコンウエハー以外にも多岐にわたる半導体の材料を作る企業、そして半導体を作る企業があります。得意分野に磨きをかけて分業するような形で多くの企業が関わっていると言える」と分析しています。

まとめ

末吉社長は国際競争について「今度中国との争いになってくるので、日本のメーカーやほかのメーカーが競争できるかというと、そこに新たな戦略をもっていかないと非常に厳しくなると考えている」と危機感を示しつつも、佐賀県の材料供給基地としての強みを活かした成長戦略を描いています。九州がシリコンアイランドを目指す中で、佐賀県は製造拠点としてだけでなく、半導体製造に必要な材料が全て揃う「材料供給基地」として独自のポジションを確立。このような産業集積は、今後の半導体産業の発展において重要な役割を果たすことが期待されます。熊本のTSMCのような大規模な話題性こそありませんが、産業全体を支える基盤技術と材料供給の面で、九州の半導体産業の未来を支える重要な存在として位置づけられています。
【2025年11月11日放送 かちかちLIVE サガSagace より】

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