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捨てるはずのものが宝の山に?佐賀県内企業が実践する「アップサイクル」の革命
アップサイクルとは何か?従来のリサイクルとの違い
「アップサイクル」という言葉をご存知でしょうか。リサイクルは聞いたことがあっても、アップサイクルは初めて耳にするという人も多いかもしれません。
アップサイクルとは、廃棄物や不要品となるような物に、デザインやアイデアで新しい価値を加えて、別の製品へと仕上げ、生まれ変わらせる再利用のことです。
従来のリサイクルは、再度原料に戻してから使用する方法ですが、アップサイクルは元の素材や特徴を活かしながら、より付加価値を高める資源活用法なのです。この新しい概念が、佐賀県内の企業で実際に形になっています。
テントの端材が高級バッグに変身!多久市の山口産業の挑戦
最初に訪れたのは、多久市にある山口産業です。同社は大型の倉庫や空港の通路屋根など、大型建築物をテントで作る会社として知られています。特に注目すべきは、大阪万博のパビリオンを14案件も手がけるなど、その技術力の高さです。
年間100トンの端材を有効活用
「建物を作る時に必要な形に裁断するので、端材っていうのが出ちゃうんですけど、うちが作るテントって本当に大きい。直径30m以上とは、もう、ざらなので、そうなるとやっぱりその分出る端材の量も多い」
同社が年間に出す端材の量は、なんと100トン。この無駄になる高性能な生地を何かに活用できないかと考えた結果、アップサイクルという手法にたどり着いたのです。
学生のアイデアが生んだ「折り目デザイン」
山口産業がアップサイクルで生み出したのは、プリーツ加工を施したおしゃれなバッグです。このアイデアは福岡県の香蘭女子短期大学の学生が提案したものでした。
「このプリーツ加工をかけるっていうアイデアは、学生さんが出してくれたアイデアになります。製品って、シワが出ないように張力とかテンションをかけて初めて強度を出すんですけど、もう逆に折り目をつけるっていう発想が絶対に山口産業からは出なかった」
テント製造において「折り目」は天敵とされてきました。しかし、あえて折り目をつけてデザインとして活用するという発想の転換が、まったく新しい製品を生み出したのです。
限定生産品が大好評で完売寸前
このバッグは、山口産業の創業50周年の記念式典ノベルティとして限定生産されました。ところが予想以上の好評を博し、取材時点で手元にあるのはわずか数個だけという状況でした。
「売らないのかとか、売ってくれないかってちょっと今言われてたりもするので、ちょっと今後考えていきたいなと思ってるんですけど」
端材の一部をバッグにできるのは「ほんの一握り」だと担当者は言います。しかし、「この端材を面白いと思ってもらって、何か別のものに変えたい、アップサイクルしたいっていう方達と繋がれれば、このアップサイクルの輪が広がって初めてそこで廃棄物自体が少なくなっていく」と、さらなる可能性への期待を語りました。
卵の薄皮が液体肥料に!有田町エネゴの革新技術
続いて訪れたのは、有田町にあるエネゴです。同社が取り組むアップサイクルは、さらに驚きの内容でした。なんと、ゆで卵を食べる時に邪魔になる卵の薄皮を原料にしているのです。
「卵殻膜、卵の薄皮を分解して、アミノ酸を抽出して、それを液体肥料にするという工程をここで行っています」
卵100万個分の薄皮で液体肥料1本
卵殻膜とは、卵の殻の内側にある薄い膜のことです。卵1個からわずか0.1gほどしか取れない貴重な素材で、液体肥料1本を作るのに「大体卵100万個ぐらい」の卵殻膜が必要だといいます。
本来、食品メーカーが卵の殻とともに廃棄していたこの卵殻膜を、エネゴが回収してアップサイクルしているのです。
ヒヨコを守る強力なバリア機能
なぜ卵の薄皮が肥料になるのでしょうか。実は、卵殻膜は自然界において重要な役割を果たしています。ヒヨコを紫外線や乾燥、病原菌から守る強力なバリア機能を持っているのです。
そして、その成分には18種類のアミノ酸が豊富に含まれています。「この卵殻膜を18種類のアミノ酸に分解して、そのアミノ酸が植物にとって重要な栄養素になります」と担当者は説明します。
天候に左右されない栄養補給
植物の栄養となるアミノ酸は、一般的に光合成で作られます。しかし、光合成は天候や暑さ・寒さなどに左右されるため、十分にアミノ酸が作れないケースも出てきます。そんな時に、この液体肥料が威力を発揮するのです。
「もう栄養の宝庫ですね」とリポーターが驚きの声を上げるほど、卵殻膜の持つ可能性は計り知れません。
ホームセンターで購入可能、海外展開も視野に
まとめ:身近なところにある「宝物」を見つけよう
今回紹介した2つの事例は、環境問題に対する問題意識から生まれました。「なんとか捨てていたものを使えないか」という思いがスタートとなり、革新的な製品やサービスが生まれています。
「日頃自分が捨ててるものの中にも絶対ある」「今我々が見えてるこの景色の中にもひょっとしてアップサイクルの可能性は隠れている」という指摘の通り、アップサイクルの可能性は私たちの身の回りに数多く眠っているかもしれません。
こうした環境配慮型の商品が市場に出ることで、一人一人が環境について考える機会も増えていきます。佐賀県内の企業が示したアップサイクルの実践例は、持続可能な社会に向けた具体的な一歩として、大きな意味を持っているのです。

