佐賀のニュース
事業承継の現状“あとつぎ問題” 旅館受け継いだ女性や食堂引き継いだ男性に密着【佐賀県】
2024/09/09 (月) 18:40
跡継ぎの決まっていない企業が全体の半分以上を占めるなど、全国で取りざたされる後継者問題。県内でも年間約150の会社が“後継者不在”により、自ら事業を取りやめるとも言われます。そんな中、事業承継という“バトンを受け取った”2人を取材しました。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「ジェットコースターのように心を揺らしながら、1日を楽しんでいただければと思います」
佐賀市の中の小路にある旅館あけぼの。この日集まった175人ものお客さんのお目当ては、フランスの伝統的な音楽“シャンソン”と日本の伝統的な演芸“落語”を合わせたイベントです。
【来場客】
「1度で2度おいしいっていう感じですかね」
「(落語とシャンソンが)どう融合するかと思ったら意外と融合してるんですよね、だから素晴らしいです」
イベントの仕掛け人は、旅館の5代目の代表をつとめる音成亜美さんです。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「皆様の心が豊かになるにはどうしたらいいのかっていう、それをいつもコンセプトにですね、イベントを考えてます」
一流の出演者を呼ぶことができた裏には旅館の“歴史”が。
【落語家 古今亭菊之丞さん】
「もうネタ帳を見ると(寄席のイベントを)30数回やってるわけですよ、ってことはお客様は慣れてらっしゃるわけですよね、落語ってものにとてもよく笑ってくださる」
【シャンソン歌手 井関真人さん】
「日佐男さん(先代)がそういうこと好きじゃなかったらやらなかったと思うんだけどね」
亜美さんの父で4代目の日佐男さんは、“一流の文化を佐賀に”という思いで寄席やシャンソンなどのイベントを40年近く前から開いてきました。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「(ネタ帳は)そのときの前座の方が書かれるんですよ。で、たい平師匠は昔から字がこんなですっごいお上手な」
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「街中にある旅館として何ができるのかっていうのを考えて考えた結果、それがやっぱり文化をこう発信してっていう」
これまで家業とは無縁の食品会社でマーケティングなどを手がけてきた亜美さん。宿泊客を管理してきた手書きの台帳の廃止など、“あけぼのの伝統”にメスを入れた部分も。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「システムに全部入ってると、お名前だったり、電話番号だったり、日にちだったり、いろんな角度で検索ができる」
台帳の代わりにインターネットを活用したシステムを導入しますが、ねらいは作業の効率化だけではありません。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「お客様へのこのおもてなしのレベルをこう上げていくためなんですよね、あけぼのさんに来てよかったねって思ってもらえるようなことに全てはつながるように」
父から事業継承のバトンを受け取った亜美さんですが、代替わりは突然のことでした。
【旅館あけぼの 音成亜美代表】
「いつこう継ぐべきかみたいなのをこう迷っていた時にもう急に父が亡くなった」
【旅館あけぼの 音成洋子さん】
「“私は1人ではできない”って、そしたら娘はもうはっきりと“もういい私が継ぐからってもう会社は辞める”って言ってくれて」
亜美さんの母の洋子さんによると、先代は亡くなる前に廃業も見すえてか旅館の借金を全て返済したといいます。
【旅館あけぼの 音成洋子さん】
「辞めるっていう選択肢も考えないといけないかなっていうのは、どこかに主人はあったみたいですね」
周りに迷惑をかけないよう事業を自ら取りやめる事業者は少なくありません。
【佐賀県事業承継・引継ぎ支援センター 江越剛さん】
「300件程度(県内で)休廃業・解散っていうのがあってて、(後継者不在が)半分以上」
会社の資産が負債を上回っているにもかかわらず、会社が事業を停止する休廃業・解散。県内では近年、おおむね年間300社が休廃業・解散を選びますが、そのうち半分以上が“後継者不在”で姿を消すとも言われます。地元の商工会などの調査によると、後継者の決まっている県内の企業は全体のわずか3割あまりにとどまっています。
佐賀市嘉瀬町のかせ食堂。焼きめしに高菜をたっぷり入れた“たかなめし”が人気メニューです。
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「1回くらい食べに来たことはあったかなーというぐらいの感じで。だからもうほぼ(先代との)面識はゼロに等しかった」
地元で50年以上愛されてきたこの食堂を継いだのは轟木康一郎さん。轟木さんは別の飲食店で25年ほど腕を振るっていましたが、これまで食堂とは縁もゆかりもありませんでした。
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「ロードサイドの結構繁盛店でやってたので、今度はその地元に根ざしたのんびり食事してもらえるような場所をやりたいなっていう」
実はかせ食堂は先代の引退に伴い、 “後継者不在”で3年前に一度閉店。元々店をやりたいと思っていた轟木さんが、先代に食堂の後を継ぐことを申し入れますが…
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「今閉めたばっかりで誰かにしてもらおうとかってそういう気持ちは一切ないって言われて」
一度は断られますが、先代と同じく持っていた料理人としての“想い”が今につながります。
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「お腹いっぱい食べて帰っていただきたいとかそういう話とか、自分と似たような感じの部分を感じ取っていただけたのかな」
【佐賀県事業承継・引継ぎ支援センター 江越剛さん】
「こいつやったらやるかもしれんっていうぐらいの熱量で来てもらうと、ちょっと任せてみたいな(と思う」
県事業承継・引継ぎ支援センターや地元の不動産屋の支援もあり、先代の信頼を得た轟木さんは、閉店の次の年に食堂をリニューアルして再開。
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「まずすぐ事業承継センターに駆け込むような形で相談乗っていただいて、第三者の専門機関を入れて色々な人にお話を聞いていったり、色んなサポートをつけながらやっていくのがすごく大事なことじゃないかな」
【大学生客ふたり】
「安くておいしくて(うれしい)」
「家庭的でいいですよね、母ちゃんを思い出す」
轟木さんはお客さんのエールを受けながら、かせ食堂の歴史をつなぎます。
【かせ食堂 轟木康一郎さん】
「“かせ食堂さんあるけん良かったよね”みたいな感じで地元の方にもっと言っていただけるようなお店になっていけたらな」
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